鴛鴦呼蝉庵日乗
  2001.11.16 脱皮
 この夏に紅葉台にハイキングをしたとき、いつもはいている靴なのに、左足の小指があたって、痛みがありました。その夜に小指を見ると、爪の中が内出血で赤くなっていて、少々違和感がありました。翌日は富士山にそのまま登り、そして、帰宅してから足の爪みると、一面に赤黒くなっていたのです。
 秋になっても爪の色は変わりません。痛みはすでにないのですが、爪の生え具合が悪いのです。そして木枯らしが吹くようになりました。そのまま爪の色はかわらず、三ヶ月が過ぎました。そしてそのことさえ忘れてしまった昨日、朝起きて水を飲んでいると、左足の小指の先に何かついているような感じがしました。レシートでも足についたのかと思い、ふと見ると、小指の爪がはがれてかすかしか残っていないのです。ちょっと引っ張ったら小指から離れました。すでに爪の色を失っていたそのかけらは、使命を果たしたのか、多少の重みも感じながら、離れていたのです。
 しかし、そのはがれた後を見ると、新しい爪が赤子のようにやわらかく生えていました。つまり、下にこれから生える爪の成長を保護するために既に死にゆく爪は役割を果たしていたのです。
 この現象を見ると、脱皮に似ています。しかし、脱皮とはその下に次なる殻をすでに宿していて、その準備が出来たら脱皮するのです。それは、裸になることではありません。裸の次にある存在を認めて、そしてその存在が次に生きることを見届けてから古き殻はその使命を果たすのです。
  ◇
 人間もそうかもしれません。脱皮ということ、それは裸になって一から出直すのではなく、すでに次なる段階への準備が終わった時に脱皮する、つまり新しい自分になるのです。その準備期間は外から見えない内部のものです。次なる者へは内部の変更を伴う、それから外部の変更となるのです。
 簡単に脱皮の用語を使用していましたが、実は、その見えないところで、次なるステップを踏んでいたのは、大人のみならず、子どもにもあてはまるものではないでしょうか。

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