鴛鴦呼蝉庵日乗
  2001.10.29 歌舞伎観劇記「天下茶屋」
 10月は国立劇場開場35周年記念、「大願成就 殿下茶屋聚(てんがちゃやむら)」を観てきました。国立劇場は伝統文化の保存の意識が強いので、歌舞伎座のように定番を繰り返し上演するのではなく、復活劇が多く、通して上演することで、役者が芝居を覚えて次世代に伝えるということをしています。しかし、長年復活されないということは、それだけ世間で受け入れられなかったということですから、面白さは保障できません。それなりに脚本や時代的な受け入れに問題があると考えるのが妥当でしょう。
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 役者では、やはり中村吉右衛門の演技が目を惹きます。現時点では当代一ではないでしょうか。あまりにも滑稽になることなく、それで、面白さを残している点はさすがです。ただ、脚本に問題があるのか、元右衛門の裏切りの過程がうまく書かれていないので、結局は一幕と残りとに差が有りすぎることになります。ここは、脚本の問題でしょう。
 国立劇場の場合は、それほどおもしろいと思えないものもありますが、この演目は十分に楽しむことができると思います。
 ただ、難点なのは、一人複数役していることで、同じ役者が演じるから、死んだはずの人が復活してしまったような感覚を与えてしまうことです。ここは工夫が必要です。
 他の役者では富十郎がいい演技をしていました。出番は少ないのですが、なかなかいい味を出していて、舞台が引き締まります。梅玉はやはり今回も難点がありました。演技が一本調子で、表情などに工夫がありません。視点が定まらないのと、どれも一本調子になってしまう点です。富十郎や吉右衛門のよさは、表情、演技にめりはりがある点です。このことを次世代の方は学んでほしいと思います。
 さて、見所は、いろいろあるのですが、おもしろい場所は、元右衛門が弟を殺害するために天窓から進入する場面です。元右衛門を残忍な悪党というよりも、金に走った小物を演じている点です。それと、最後の成敗される場面でもなかなか、粗忽な根からの悪党でないことを演じているところがさすがです。
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 せっかくの舞台でしたから、福助などを入れて、豪華にすると芝居全体が引き立ってよかったのではないかと思います。今回はなかなか良い演目でした。

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